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2020.08.05 up
栽培から小売まで~リネンのスカッチング~
現在 USEDを拡張する進化型古着屋“森”では、実験的にリネン(亜麻)を自分たちで栽培、収穫して糸にし、さらに生地や製品にする取り組みを行っています。
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■繊維にするまでの工程
昨年の秋に収穫したフラックス(亜麻)を、今回は繊維にしていきます。
こちらが前回収穫したフラックス。
※「フラックス」は原料段階の亜麻の呼び方で、糸になってからの工程で「リネン」と呼ばれます
工程は以下の通り、ヨーロッパに伝わる昔ながらの手作業ですべて行います。
・フラックスを収穫
↓
・しばらく雨露にさらす(デューレッティング:Dew-Retting)
※レッティングをすることにより、茎の余分な要素を剥離させて繊維以外の部分を取り除きやすくします
↓
・天日干しで乾かす
↓
・叩いて繊維を壊す
↓
ブラッシングして柔らかい繊維のみにする
■リネンについての説明
作業の前に、このリネンプロジェクトを一緒に行っていただいている
株式会社AKAI (会社HP) の大東 武弘さん(以下:大東)にリネンの現状や歴史を詳しく話していただきました。
-こんにちは、本日はよろしくお願いいたします。-
大東
こんにちは。弊社は1911年創業の京都にあるリネンの専門商社です。
今回リネンの現状や歴史について簡単にお話させていただきます。
まず国内のフラックスの産業ですが、こちらは1960年ごろまで北海道で生産されていたのですが、現在は繊維としてのフラックスは国内生産されていません。
昔は軍服や戦闘機の羽根の素材として使われ、軍需産業として栄えたのですが、現在軍用の需要はなくなったことと、衣類の原料も化学繊維に取って代わられたからです。
なので、現在市場にある原料としてのフラックスは「中国生産」か「ヨーロッパ生産」がほとんどで、北海道で生産されているフラックスはオイル用と観賞用です。
-なぜ北海道で栽培されているのですか?-
大東
上質なフラックスは伝統的にヨーロッパではベルギーや北フランス、オランダなどで主に生産されていました。
その産地のような一定の気候条件に北海道は合っていました。
-現在大量に水を使う「綿」栽培による環境汚染が問題になっていますが、今後リネンが代替してくるのでしょうか?-
大東
確かに今「綿」の生産は世界でも問題になっていて、有名なもので言えば「アラル海の悲劇」という環境被害も起こりました。
※綿の栽培で大量に水を使い、塩湖が干上がった環境被害
だけど残念ながら、リネンが代替することはないと思います。
なぜなら、栽培できる気候が限られているからです。
それよりも世界の流れは「ヘンプ」が主流になってきています。
※ヘンプは気候を選ばず栽培しやすい麻の種類
パタゴニアが衣類の原料にヘンプ混を使用したり、昨年上海で行われた世界最大の生地の展示会でも、ヘンプ混の生地のブースは大盛況でした。
だけど、リネンにもリネンの良さがあります。
リネンといえばゴワゴワ感を想像されるかもしれませんが、本来のリネンは柔らかく、さらに使い込むほど柔らかくなります。
今回は会社にある、リネンの元になるフラックス繊維をスカッチングした「スライバー」と呼ばれる原料をもってきました。
-すごい柔らかいですね!-
大東
はい、本来はこのくらい柔らかい素材なのです。
現在製品として出回っている麻製衣料品は「コットンリネン」で、綿と混紡(糸を引くときに繊維を混ぜる方法)が大変多いのですが、
紡績の段階で繊維が長いリネンを細かく砕いて、コットンの中に混ぜる方法が主流で、仕上がる風合いはコットンに近い質感になります。
上質なリネン100%素材は、使えば使うほど柔らかくなり、経年変化していくのでヴィンテージ感が増していきます。
-ありがとうございます、今回このくらいの質感で作れるようにがんばりましょう。-
■リネンスカッチング作業
今回のフラックスはすでにレッティングまで済ましているので、工程として叩くところ(ブレイキング)から始まります。
今回は古い文献を参考にしながら、道具はホームセンターにあるもので制作しました。
まずは叩いて余分な茎などを粗く取り除きます。
ひたすら叩きます!
その後こちらの工具ではさみ、さらに潰していきます
ひたすら潰します。
そして最後に鉄のブラシでブラッシングして、繊維のきれいな部分のみを残します。
最後に残ったものがこちらのリネンです。
ボリュームは最初の刈り取った後の状態から 1/10 以下くらいまで小さくなっています。
植物だったとは思えない柔らかさになっています。
色もまさに亜麻色でリネンがこんなに綺麗で柔らかい素材だとは思わなかったです。
■感想
今回栽培したフラックスからリネンにするまで手作業で行い、糸にするまでにこんなにも手間と時間、そして労力がかかるのだと改めて驚きました。
大東さんのお話では、昔のヨーロッパの人達はこの作業を村人総出で行い、それぞれの村でリネン糸が紡がれて織物となり、人々の衣類になりました。
そのリネンの衣料品は世代を超えて親から子へ受け継がれていきます。リネンには、そういった「受け継いでいく」文化が宿っています。
「農業(食)」と「衣類」は自分たちのコミュニティーで共同で作り、生活していたのですね。
衣類を自分たちで作ることにより、服を作る大変さを知っていると、今の時代のような「飽きたり、汚れたら捨てて新しいものを買う」という使い捨て消費は絶対できないことだと感じました。
今後はこのできたリネン繊維を紡ぎ、糸にしていきます。
そちらもまたこちらのHPにてレポートしていきます。